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東京高等裁判所 昭和52年(ネ)685号 判決

控訴人(原審被告)

村田喜七郎

右訴訟代理人

磯辺和男

外一名

被控訴人(原審原告)

森千一

主文

本件控訴を却下する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴人は、「原判決を取消す。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする」との判決及び仮執行の宣言を求め、原判決送達の効力に関して

1  昭和五一年一二月二三日に原判決を受領した控訴人の子村田喜浩は、受領時満一三歳四箇月の少年であつた。

2  喜浩は、送達の意味、目的、効果を認識、理解する能力も、これを送達名宛人に交付する能力もなかつた。

3  執行官は、喜浩に何らの説明をせずに封筒入りの判決正本を交付し、送達報告書に署名を求めた。

4  喜浩は、一般の広告郵便物の類と了解し、広告郵便物や古新聞を入れる箱に入れたまま失念していた。

5  控訴人は、昭和五二年一月下旬に至り、古新聞等の整理中に右封筒を発見した。

6  何らの説明もないまま事理弁識の能力のない喜浩になされた原判決正本の送達は無効である。

と述べ、〈た。〉

被控訴人は、控訴却下の判決を求め、喜浩は、送達の何であるかを了解し、受領した書類を宛名人に交付(伝達)することについて期待可能性のある能力を有していた。従つて原判決正本の送達は、昭和五一年一二月二三日喜浩の受領によつて有効になされたものというべきであり、控訴期間経過後になされた本件控訴は不適法であるから、却下を免れない、と述べ、〈た。〉

理由

本件記録によれば、原判決は昭和五一年四月八日言い渡され、その判決正本は、原審被告(本件控訴人)を受送達者とし、送達の場所を神奈川県芽ケ崎市東海岸北二丁目六番五九号とし、同年一二月二三日午後四時四〇分控訴人の子息村田喜浩に対し横浜地方裁判所執行官職務代行者古屋長重により民事訴訟法第一七一条第一項のいわゆる補充送達の方法によつてその送達がなされたものであるところ、原判決に対する控訴人名義の本件控訴状が原裁判所に提出されたのは昭和五二年一月二六日であることが明らかである。

〈証拠〉によれば喜浩は、昭和三八年七月二七日生で当時一三歳四箇月に達し、芽ケ崎市立第一中学校一年に在学し、二学期も終りに近かつたこと、喜浩の同校での学業成績は一年の三学期で二八〇人中一一七番であつたこと、喜浩は控訴人不在中に受取つた書類について、広告類とか普通の郵便物は控訴人の机の上に置き、大事な郵便物と領収証は必ず茶箪笥の抽出に入れていたこと、喜浩は裁判所の者と名乗る前記執行官職務代行者から本件書類(原判決正本入りの封筒)を裁判に関する書類であることを認識して受領し、これを、大事なものと考えて茶箪笥の抽出へ入れたが、このことを控訴人に話すことを忘れていたこと、控訴人は喜浩が大事な手紙を茶箪笥の抽出にしまうことを普段から知つていたこと、控訴人は喜浩受領後一箇月位して右抽出の中から右封筒を発見したこと、以上の事実が認められる。

右認定の事実によれば、喜浩は送達の性質を理解し、受領した書類を送達人に交付することを期待し得る程度の能力を有していたものということができ、従つてこれに対する前記送達は事理を弁識するに足る知能を具ふる者に対する書類の交付として有効であるといわなければならない。

そうすると、本件控訴は、判決の送達のなされた日より二週間を経過したのちになされた不適法なものであるから、これを却下することとし、控訴費用の負担につき民事訴訟法第九五条および第八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(岡松行雄 園田治 木村輝武)

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